リスニング・エフォートを支援する

リスニング・エフォートを踏まえた支援では,「きこえていても楽にきく」ということがキーワードになります。単に「きき取れる」ようにするだけでなく,「きき取るために必要なエネルギーを減らす」という視点が何より重要です。このページでは,リスニング・エフォートの観点から考えられる支援の方向性と具体的な方法について解説します。

支援の基本的な考え方

まずリスニング・エフォートの視点から支援を行う際に,支援の対象が「きき取ることが難しい人」ではなく,「きき取れていても大変さを抱える人」になる,という視点の転換が重要です。聴覚障害のある本人ですら「きき取れているから問題がない」と感じ,リスニング・エフォートに関する自覚がないこともあり得ます。そういった場合は,リスニング・エフォートを切り口として,本人と共にきこえの問題を多面的に考えていくことが重要です。

そのうえで,リスニング・エフォートを踏まえた支援の方向性について,特別な支援方法というものは存在しません。実は,従来から行われてきた支援と共通する部分が多くあります。具体的には,①きこえやすい環境を整えたり,視覚的な情報を活用して「見てわかる」ようにしたりすることで情報へのアクセシビリティを高めること,そして②本人とよく話し合ってリスニング・エフォートについて理解を深めつつ,「休息を上手に取り入れる」というアプローチが考えられます。

情報アクセシビリティを高める

(1)補聴機器をフル活用する

もしまだ補聴器を使っていない軽度・中等度難聴の場合には,適切に調整された補聴器をつけることがファーストチョイスになるでしょう。たとえば,オーティコン社のリサーチブリーフでは,新しい補聴器の開発においても,リスニング・エフォートが軽減するのか,という観点から検討が行われています(Zapata-Rodríguez & Santurette, 2024)。

すでに補聴器や人工内耳を使用している場合でも,補聴援助システムの使用を検討してみましょう。補聴援助システムは送信機と受信機を活用し,話者の音声を補聴機器に直接届けるシステムです。一般的に話者との距離が離れるにつれ音声は小さくなり,雑音の影響を受けやすくなります。そういった環境ではより話者に集中する必要があり,高いリスニング・エフォートが要求されますが,補聴援助システムはこれらの状況を大きく改善することができます。補聴援助システムは,リスニング・エフォートを下げるという視点からも極めて有効な機器です。

(2)情報保障手段の活用

要約筆記や文字通訳,さらには手話通訳などの手段は,聴覚的な情報を捉えることができないための代替手段として使用されることが一般的です。しかし,リスニング・エフォートという視点で考えると,聴覚情報を捉えることができる方でも,その負担を下げるために情報保障を活用することも有効です。全てを情報保障に頼るのではなく,聴覚情報を主な情報源として入手しつつ,時折情報保障にも目を向けてきき取りの負担を減らすこともできます。聴覚情報と視覚情報のどちらに重きを置くのかに関しては,個々人の事情や,当人が置かれた状況に応じて臨機応変に決めることが望まれます。

(3)その他の環境調整

物理的な環境を調整し,きき取りやすく・見てわかりやすい状況を作ることも重要です。従来通り,教室や会議室などでは,騒音を減らす工夫(カーペットの使用,椅子の脚にフェルトを貼るなど),座席位置の配慮(話者に近い位置,窓側の騒音から離れた位置など),といった配慮が有効です。聴覚障害のある子どもの場合は,これらの環境を自分で整えることには限界があるため,周囲の大人がサポートしつつ,発達に応じて自身で環境を調節していく力であるセルフ・アドボカシーを高めるように促していきましょう。環境調整に関しては,片岡・中川(2021)の「難聴をもつ小・中・高校生の学校生活で大切なこと : 先生編」もあわせてご確認ください。

エフォートと向き合う支援

リスニング・エフォートに対する支援を考える上で,もう一つ重要な視点があります。それは「エフォートと向き合う」という考え方です。

筆者自身は,エフォートが高いことが必ずしも悪いとは限らないと考えています。エフォートが高いということは,それだけ一生懸命話をきこうとしていることを意味します。その意思や姿勢は尊重すべきものです。

ただし,その方が抱えるリスニング・エフォートの内訳を考えることも重要です。
「きき逃すことができない重要な会議」や「自分がききたいと思う話」の際には,リスニング・エフォートが高まることは避けられないかもしれません。一方で,「うるさい場所での会話」や「重要度の低い話」に関しては,支援機器を活用することでリスニング・エフォートを下げたり,そもそも情報保障を中心に使ったり(きくことを休憩する)という選択肢があります。

あわせて,マラソンのように自身でペース配分を考えることも重要です。たとえば,自身の生活を見直して,「どの場面で自分が音をきくことに全力を注ぎたいのか」「どの場面で少し力を抜くのか」というようなことをしっかり考えていくことが大切です。何が重要で,何が必要ないのか,さらにどこで集中したいのかといったニーズは一人ひとり異なるかと思います。したがって,当事者の方自身がきこえのペース配分を考えて,意思を決定すると同時に,必要があれば周囲に支援を依頼することが重要になります。

こうした選択や判断を行うためには,まず自分自身のリスニング・エフォートの状態に気づくことが必要です。現時点ではまだ開発中のものではありますが(リスニングエフォートの評価方法),専門家と共に評価ツールを活用しながら,自身のリスニング・エフォートについて理解を深めていくことが,支援を受ける側・提供する側の双方にとっての第一歩となります。また,周囲の人々にもリスニング・エフォートについて理解してもらい,必要なときに適切な配慮を求められる環境を整えることも大切です。こうした取り組みを積み重ねていくことが,自分なりのきこえを理解し,ウェルビーイングを達成することにつながっていくのではないでしょうか。

 

〈引用〉

Zapata-Rodríguez, V., & Santurette, S.(2024). Reducing sustained listening effort and listening stress with Oticon Intent™.( https://p3.aprimocdn.net/dgs/179107f6-8ced-4c18-bcd5-b18f00b93b21/276127UK_Research_Brief_OT_Sustained_listening_effort_and_listening_stress_Original%20file.pdf)

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