リスニング・エフォートの評価法

リスニング・エフォートを評価するために様々な方法が検討されています。しかし,「がんばり」という見えない現象を扱うために,評価が非常に難しく,特に日本では,臨床や教育の現場で使える方法が限られています。このページでは現在国際的にも主流とされている手法について解説したいと思います。なお,このページの情報は少し専門的なものになります。

リスニング・エフォートの評価法

リスニング・エフォートの評価法は大きく3つに分類されます(Shields et al., 2023)。以下ではその概要と,代表的な方法について説明します。

(1)生理学的手法

聴覚刺激に対する身体反応と取得するという方法があります。生理学的手法の中でわりと確立されているのが瞳孔径(黒目の大きさ)を用いた評価です。きこえづらい環境で音声をきき取ったときに瞳孔が拡大するという現象が確認されています。これは交感神経系の緊張に由来しており,認知的な負荷が高まると瞳孔はより大きくなります。つまり,瞳孔が大きくなるほどエフォートが高いと言え,さまざまな条件できき取りを行ってエフォートについて評価します。その他,脳機能を調べたり,唾液中のアミラーゼをみるといった方法もあります。これらの手法は客観的かつ,即時的な反応を検討できる一方で,計測のための特殊な機器を必要とするため,実践現場での活用には制約があります。

(2)行動的手法

行動指標では,反応時間や副課題の成績低下からエフォートの大きさを推定します。代表的なものが二重課題(dual-task paradigm)です。二重課題では,まず聴覚課題を実施します。たとえば雑音下で単語を聞いて復唱するという課題を,雑音の大きさや難易度を調整した2条件で行います。次に副課題を行います。たとえば数字を見て奇数か偶数かを判断するという課題などです。最後にそれらを同時に実施します。その結果,雑音が小さい条件と雑音が大きい条件を比較すると,聴覚課題の成績にはさほど差がないものの,副課題の成績が大きく低下するという現象がみられます。

きくことにエフォートを多く割いた結果,頭の中の容量が減ってしまい,副課題に用いる余裕がなくなるためです(リスニング・エフォートとリスニング・ファティーグの重要性)。すなわち,副課題の成績低下の程度が,聴覚課題の成績を維持するために心的リソースを割いた量を反映していると解釈できます。

このような複雑な手順が必要とされるのは,単なる成績差ではなく,「きき取れているががんばっている」状態を捉えるためです。「課題が難しくて成績が下がったからエフォートが高いだろう」といった単純なものではなく,「成績は高いけれどもエフォートも高い」という状態を測定しなければなりません。問題点は指摘されつつも,リスニング・エフォートの評価について最も感度が高いのがこの二重課題だと言われています。その他には,きき取りの成績に変化がないものの,難しい条件では反応時間が遅くなるといった結果からリスニング・エフォートを検討する方法もあります。

(3)主観的手法

主観的手法としては,様々な課題を行った直後に「どの程度がんばっているか」や「どれくらい疲れたか」を直接尋ねる方法があります。その中で最も広く使用されているのがバンダービルト疲労尺度(Vanderbilt Fatigue Scale:VFS)で,リスニング・エフォートではなく,日常のリスニング・ファティーグを評価するものです。成人用・子ども用があり,ほとんどが10問程度で簡単に回答できるようになっています。日本語版の基準値はまだ算出されていませんが,支援の前後や,補聴器装用の前後で数値がどう変わるのかという個人内変化を見るという意味では十分に活用できるツールです。

リスニング・エフォートの評価における課題

このように評価法は生理学的指標や行動指標からなる客観的評価と主観的評価の2種類に大きく分けられますが,それぞれに課題があります。

客観性の高い生理学的手法や行動的手法を用いた場合,指標を捉えるためには機器が必要であり,誰でも簡単に実施できるわけではありません。また,エフォートを測定することの自体難しさもあります。簡単すぎる課題ではエフォートが高まらないので,課題の難易度を上げたとします。しかし,難しすぎる場合は,モチベーションが下がって諦めてしまうので,エフォートは高まりません。難易度にかかわらず,課題自体へのモチベーションが低い場合もエフォートはそこまで高くないという事態もあり得ます。特に子どもの場合は課題中のモチベーションを維持することが問題となります。さらに,日常場面では様々な要因が複雑に影響してくるため,実験場面と日常場面の様子が一致しないといった問題も指摘されています。

一方で,VFSは現在日本で唯一確立された評価法であると言っても良いのですが,質問紙などの主観的評価では,感じ方の個人差が非常に大きいという問題が指摘されています。子どもの場合は,自分のことを十分に理解できておらず,適切な評価を行えないといった課題もありえます。  こういった理由もあり,それぞれの指標で捉えようとしているエフォートの概念が異なることが指摘されています。したがって,さまざまな方法を試みても,結果が必ずしも一致しないことも少なくありません。目的に応じて複数の手法を組み合わせ,多角的に評価することが望ましいとされています。

リスニング・エフォートに影響を及ぼす要因でも説明したように,エフォートは被験者自身のモチベーションや意図にも左右されます。この点を踏まえると,自身のエフォートやファティーグを何らかの形で把握できる主観的指標が重要であるとも考えられます。客観的指標は,主観的理解を理論的に支える重要な根拠となるでしょう。こうした視点は,支援のページで紹介する実践的なアプローチを理解するうえでも有用です。

 

〈引用〉

Shields, C., Sladen, M., Bruce, I. A., Kluk, K., & Nichani, J. (2023). Exploring the correlations between measures of listening effort in adults and children: A systematic review with narrative synthesis. Trends in Hearing, 27, 23312165221137116.

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