リスニング・エフォートの重要性
話をしっかりときき取れている場合,その場では大きな困り感に繋がらないこともあるため,当事者ですら自身が無意識のうちに「がんばっている」ことに気づきづらいと言われています。しかし「きき取れているから問題ない」と思っていると,後にさまざまな問題に発展する可能性が指摘されています。ここではリスニング・エフォートに関連する問題について考えたいと思います。
リスニング・ファティーグとリスニング・バッテリーの問題
リスニング・エフォートに関連した考え方として,「リスニング・ファティーグ」と「リスニング・バッテリー」があります。リスニング・エフォートは「話をきいている最中」に生じます。一方で,ファティーグやバッテリーは,その結果として生じる「疲れ」や「エネルギーの消耗」を表します。

こちらは小学生が朝起きて1日を過ごす様子を簡単に表したモデルです。このモデルでは2時ごろにエフォートが大きく下がり,その後放課後に友達と遊ぶときにまた少し高くなるという傾向がみてとれます。つぎに,ファティーグの方を見てみると,このケースの場合は午前中から午後にかけてどんどん疲れが溜まっていっていき,2時ごろには疲れがピークになっています。2時ごろはエフォートが急激に下がっていますが,これは「話をきいていない」のではなく,「疲れがたまって,きき取りに使うエネルギーが残っていない」状態だと考えられます。その後きき取りを「諦める」ことで若干回復はするのですが,一度たまった疲れは簡単に回復しない様子も見て取れます。同じように,バッテリーに目を向けると,朝は100%だったのがどんどんエフォートを使うことでバッテリーが低下し,ちょうど2時ごろには0%でエネルギー切れを起こしていることがわかります。

Bess et al.(2014)を参考に,別の観点からも考えてみたいと思います。なんらかの要因できき取りの困難さがあると,モチベーションが高い状況ではリスニング・エフォートが増加します。エフォートが高い状態が続くと,リスニング・ファティーグ(疲労)がたまっていき,その蓄積によって注意や集中力などのさまざまな能力が低下していきます。能力が低下すると,きき取りがより困難になって,さらにエフォートが増加して…という悪循環が生じてしまいます。子どもの場合はこの悪循環が学業成績の不振や登校しぶりにつながったりされると指摘されています。大人の場合でも,この悪循環が続くと,人と会ったり外に出たりすることがおっくうになってしまい,社会的な交流の機会が減少することにもつながると指摘されています。つまり,リスニング・エフォートが高い状態が続くと,気づかないうちに,少しずつ日常生活やウェルビーイング(心身の健康)に影響が出てくることがあります。
リスニング・エフォートによる認知面への影響について
エフォートに伴う問題ということで,認知面への影響が指摘されています。図では「処理資源」や「心的リソース」と呼ばれる,ヒトの頭の中の「同時に使用できるエネルギー量」のようなものを,シンプルな四角形で表しています。

左のように,きき取りが難しくない場合はその容量の半分程度をその場でのきき取り,つまりリスニング・エフォートに割き,残りの半分の容量で,話された内容をより深く理解したり,忘れないように記憶したり,あるいは会話中であればどういう応答をしようか考えたりできます。これらの認知活動が,より深い学習や理解につながっていきます。
一方で,右側のようにきき取りが難しい状況を想像してみましょう。たとえば,英語のリスニングテストを受けているような状況では,その場で英語をきいて問題を解くことに一生懸命になってしまいますので,エフォートが高まります。そうすると残りのスペースはほとんどなくなってしまいます。ですので,その場ではきき取ることは可能であっても,左の例のように記憶や深い理解などに回す余裕がなくなり,記憶に残らないといったことがあります。実際に英語のリスニング問題が終わった後で,何が話されたかを思い出すことが難しかった経験はありませんか。このようにリスニング・エフォートが高い状況では,その場ではうまく対応できているように見えても,知識の定着や理解が浅くなってしまうことがあります。
特に子どもの場合を考えると,これらの深い理解や学びの機会が不足することが積み重なり,長期的な視点で見た場合の言語発達の問題や,学業成績の問題につながる可能性も指摘されています(田原,2023)。したがって,その場ではきき取れていても,リスニング・エフォートがなるべく高くならないように工夫することが大切です。そうすることで,子どもの理解力や学びの発達を支えることにもつながります。
〈引用〉
- Bess, F. H., Gustafson, S. J., & Hornsby, B. W. (2014). How hard can it be to listen? Fatigue in school-age children with hearing loss. Grantee Submission, 20, 1-14.
- 田原 敬. (2023). Listening Effort という捉え方. 教育オーディオロジー研究, 17, 25-33.
